東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3512号 判決
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【判旨】
<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
1 原告は<編注―当時一六才、高校二年生>は、昭和五一年初め頃から人と会うのを嫌がり家の中にとじこもりがちになり、また勉強も手がつかず学校へいくのを嫌がる等いわゆるノイローゼの症状を呈するようになつた。そこで、原告は母親と一緒に昭和五一年六月一〇日頃、ノイローゼ療法の森田療法の権威であつた亡義之<編注―神経科医>の治療を受けるため、同人の経営する「古閑寮」を訪れた。<中略>原告は即日「古閑寮」に入院することになつた。
2 入院した当日の、夕食後、原告は、亡義之から同人の寝室(洋間)に呼ばれ、ベットに横になるようにいわれた。そして原告がベットに横になると、浴衣姿の亡義之は、診察するといつて寝巻姿で横臥している原告に対し、耳をさわつたり、なめたりあるいはキッスをする等した後、パンツを脱がせ、原告の陰茎を二、三分間眺めたり手でもてあそぶ等した。
次の日の夜も、前日と同様原告は亡義之に寝室に呼ばれベットに横になるようにいわれた。そして亡義之は自らもベットに横になり横臥している原告に対し、おおいかぶさるようにして原告の耳に触れ、なめたり等し、更に原告に抱きつきキッスをした。
右二回の行為の間、原告は驚がくと羞恥のあまり身を固くするだけで、亡義之のなすがままで全く無抵抗であつた。
3 次の日(入院した日から三日目)の夕方、原告は、右のような亡義之の行為に堪え切れず、亡義之に無断で自宅へもどつた。
4 その後昭和五三年一月頃原告の母親は、亡義之に猥せつ行為をされた被害者を調査していると称する者の訪問を受け、原告の被害の状況を尋ねられ、また右の者から原告と同様な被害にあつた者が他にもいることを聞かされた。そこで原告及び両親は、相談の結果本件のようなことが二度とおこらぬように昭和五三年三月一六日母親が、同年五月二五日父親が亡義之を本件につき、準強制猥せつ罪で告訴をなした。なお、右告訴は、被疑者である亡義之が死亡したため不起訴処分がなされている。
<反証排斥略>
なお、<証拠>によれば、原告が自宅に戻つた日の二日後に、原告の母は、ウィスキーの手土産を持参して「古閑寮」を訪問し、亡義之の診療行為につき特段抗議することなく、原告の我がままをわび、被告雪から入院費の一部の返却を受けた事実が認められるが、同じく<証拠>によれば、当時原告は母に対し十分に亡義之の本件行為を説明しておらず、また母も原告の断片的な説明を半信半疑で聞いていた事実が認められることに照らすと、右事実は前記認定事実と抵触するものではない。
右事実によれば、亡義之の右行為は、到底正当な診療行為とはいえず、医者という優越的な立場を利用して驚がくと羞恥のあまり無抵抗の患者の原告になされたものであり、不法行為にあたることは明らかである。
(満田忠彦)